東京地方裁判所 昭和42年(借チ)1号 決定 1967年9月01日
東京都豊島区東池袋
申立人
甲
東京都豊島区西池袋
相手方
乙
主文
別紙(二)記載の借地契約を堅固な建物の所有を目的とするものに変更し、かつ存続期間を五〇年延長して同(二)の(2)記載の存続期間「設定の日から満二〇年」を「設定の日(昭和二八年五月六日)から満七〇年」と変更する。
申立人は相手方に対し金五三三万円の支払をせよ。
理由
本件申立の要旨は、別紙(二)記載の地上権につき、目的土地(別紙(一)記載の土地)が防火地域の指定を受けたこと及び附近の土地の利用状況の変化したことを理由として、堅固の建物所有を目的とするものに借地条件の変更を求めるというにある。
よつて検討するに、本件において調べた資料によると、
(1) 目的土地につき昭和二六年三月防火地域の指定がなされたこと
(2) 右土地はもと岸野弥左衛門の所有に属し、昭和二一年三月頃田島力男において普通建物所有の目的でこれを賃借し、右地上に木造建物を所有していたが、申立人は昭和二八年四月田島から右賃借権を地上建物とともに譲受け、当時右土地の所有者であつた岸野美よ外二名(弥左衛門の相続人)の承諾を得たが、その際地上権の設定を希望し、同年五月六日同人らとの間で期間を二〇年とし建物所有を目的とする地上権設定契約を結んだ(ただし、その登記は同月七日になされ、同日付契約によるものとされている)こと、
(3) 相手方は前記土地を買受け、その所有権を取得することともに、申立人との間の借地関係を承継し地代を昭和四二年一月分から一ケ月一万五、〇〇〇円に増額し現在に至つていること、
(4) 本件土地は国電池袋駅の西側出口から約四〇メートルぐらいの距離にあり、前記地上権設定契約当時附近の土地は区画整理未施行で木造建物が多かつたが、その後区画整理が施行されて高層ビルが立ち並ぶようになり、現在では商業地域として繁華街を形成していること、
(5) 申立人は、本件地上権の設定を受けた際、防火地域指定の事実に気付かず、右のように木造建物も多く、また差当つて田島から買受けた建物を利用することにしていたので、単に建物所有を目的とする地上権の設定を受けたものであるが、現に右建物の改築を計画するに当り、堅固の建物を建築する必要から本申立に及んだこと、
以上の事実が認られらる。
右の事実によると、申立人が本件申立の理由として主張する防火地域の指定は、申立人が本件地上権の設定を受ける以前の事実に属するから、これをもつて直ちに借地法第八条の二第一項にいう「事情の変更」にあたるとすることはできない。しかし、本件地上権設定契約締結の際の事情は、前示(2)及び(5)のとおりであり、申立人が田島から同人所有の木造建物を敷地の賃借権とともに譲受け、その際申立人は地上権の設定を希み、土地所有者との間でその旨の契約を結んだが、当時申立人は防火地域指定の事実を知らず、また前記譲受建物をそのまま存置し、一応これを利用することとしたため、建物の構造に関する条件は田島の借地当時のままとしたものであるが、これを改築しようとする現在において、右防火地域の指定に基づく建築に関する法令上の制約のため、非堅固建物所有目的の借地契約のままでは土地の利用に甚だしい不都合を生じているものと認めらる。かような事情にある場合、当裁判所は防火地域の指定を理由とする事情の変更の場合に準じ借地条件の変更を容認して妨げないと考える。のみならず、(4)に判示したように、本件土地の附近一帯の地域は、地上権設定当時には土地区画整理着手前で木造の建物がかなり多かつたが、区画整理施行とともに高層ビルが建設され、現在では池袋西口駅前の商業地域として繁華街が形成されるに至つているのであるから、契約当時と異り堅固な建物の築造を相当とするに至つたものというべきである。
それゆえ本件申立はかような附近の土地の利用状況の変化を理由としてもこれを認容すべきことが明らかである(なお、本件において、借地権の残存期間が約六年であることも右の結論を動かすものとは考えられない)。
次に附随裁判について考えるに、本件において地代の増額、存続期間の延長、財産上の給付の諸点について考慮を要すると考えられる。
ところで、当事者叉方の陳述によると、地代は一ケ月一万五〇〇〇円に増額したばかりで相手方も本件借地条件変更に伴う増額を求めず、また存続期間については、申立人が残存期間(昭和四八年五月五日までということで双方の陳述が一致している)満了のときからさらに五〇年の延長を希望するのに対し相手方において特に異議はなく、ただ相手方は右の地代、存続期間を前提として坪当り五〇万円計一一五〇万円の財産上の給付を求める。一方申立人は坪当り一五万円計三四五万円を相当とすると述べ、本件における実質的な争いはこの点に存するといえる。
以上の点に鑑み、地代はそのままとし、存続期間を残存期間満了の翌日である昭和四八年五月六日からさらに五〇年延長する(契約時より通算七〇年間)こととし、さらにこれを前提として財産上の給付の点を決定することとする。本件借地条件の変更に伴い申立人の地上権は堅固な建物所有を目的とするものとなり、存続期間も延長されてその価値の増加は少なくないと考えられ、反面相手方は本件土地の所有権価格の減少その他の損失を免れないから、双方の利害調整のため、申立人に対し相当の財産上の給付を命ずべきものと考えられる。そこで本件土地の場所的関係、従前の経過、存続期間その他本件に顕われた諸般の事情を考慮し、かつ鑑定委員会の意見を徴した上、右給付金額は金五三三万円をもつて相当と認める。
以上説示の理由により主文のとおり決定する。(安岡満彦)
(別紙)
(一)目的土地の表示
東京都豊島区池袋
宅地 一〇二・九〇平方メートル(三一坪一合三勺)(ただし、仮換地 七六・〇三平方メートル(二三坪)
(二)借地権の表示
(1) 右土地を目的として昭和二八年五月六日付地上権設定契約に基づく普通建物所有を目的とする地上権(現在の土地所有者相手方・地上権者申立人)
(2) 存続期間 設定の日から満二〇年
(3) 地代 一ケ月一万五〇〇〇円毎月末払